多田千佳さん

メタン発酵を考える研究者 多田千佳さん(2013/04/13)

経歴

東北大学農学部応用物理化学系卒業
同大学院農学研究科 畜産学専攻修了
筑波大学大学院農学研究科 応用生物科学専攻 博士取得
(財)茨城県科学技術振興財団 霞ヶ浦水質浄化プロジェクト研究員
(独)産業技術総合研究所 エネルギー利用部門特別研究員
沖縄工業高等専門学校 生物資源工学科助手・教授
東北大学大学院農学研究科准教授

メインインタビュー

―理系を選択したきっかけとは。
―最初のきっかけは、算数や理科が得意で高校入学にあたって理数科を選んだことです。高校で一番好きな科目は物理でした。担当の先生が面白い方でしたし、様々な現象を数式で表すことがすごいと思ったからです。そして、世界がどうなっているのか、世界を科学の手法で捉えたらどう見えるのだろうということに、とても興味を持ったので、理系に進むことにしました。周りのみんなは工学部に行くようでしたので、みんなと違うところに行きたくて農学部畜産学科に入りました。もとは理学部物理学科に興味があったので、大学に入ったばかりの時は、気持ちが揺らぐこともありました。気持ちが変わったのは大学3年生の時です。本格的な実習が始まり、最初に、牛の屠殺を行いました。命を目の当たりにしたとき、この学科に入ってよかったと思いました。

―高校生の時は、どのような部活に入っていましたか。
―応援団のチアリーダーをやっていました。女の子が少ない高校だったので、応援団ももとは硬派でしたが、私がダンス好きだったのでチア部を新しく作りました。応援に行ったのは、昔から部活としてあった伝統ある相撲部がほとんどでした。ほかに、写真部にも入っていました。初めて、暗室で写真を現像する様子を見て、印画紙に画が浮かび上がってくる様にとても感動したので、入部を決めました。名古屋博や飛騨高山に撮りに行ったこともあります。

―チア部を新しく作るとは、かなりアクティブだったのですね。
  ―大学では、どのような部活に入っていたのですか。
―2年生まではヨット部に所属していました。子供のころからヨットをやっていたのですが、高校時代はしていませんでした。なので、大学に入ったらヨット部に入ると決めていました。いざ入ってみたら、2、3年ぶりの女子部員で紅一点でした。海辺の部屋で、湿った布団に新聞紙をひいて泣きながら眠ったことは、ほろ苦い思い出です。この部室ですが、震災で流されてしまいました。震災の後ヨット部の友人が訪ねてきてくれたとき、ほんとに、すごくホッとしました。大学時代の部活のメンバーや友人というのは絆が強いなと思いました。学生時代は、みんなでただ寄り集まっているという感じでしたが、今になって大きな財産になったと思います。大学の時の友人は特別です。

―趣味が映画鑑賞ということですが、どのような映画をご覧になりますか。
―いろんなものを見ますが、特にアクション、ヒューマン系が好きです。元気を出したいときは、女の人が頑張っている映画、例えばアンジェリーナ・ジョリーが出ているトゥームレイダーを見ます。実は、私が仕事をするうえで支えになっている映画があります。『コンタクト』という映画で、ジョディ・フォースターが女性科学者を演じています。鹿野城は、幼いころ父との思いで胸に、星の調査と研究をしています。最初は国から資金を潤沢にもらっていたのに、ある時予算が切られてしまいます。お金が無くなって、自分の研究に出資してもらうために、様々な企業をまわってアピールします。映画では、謎めいた企業から資金をもらって研究を続けます。彼女は地球外生命体と接触するために…というお話です。彼女が自分の夢を叶えるために研究するためではなく、研究するための環境づくりに、あらゆる努力をして道を切り開く姿を見習いたいなと思い、彼女のような科学者になりたいなと思っています。

―以前なさっていた水の浄化プロジェクトとは、どんなプロジェクトですか。
―どういう微生物が多いと水がよく浄化できるかということを研究していました。お酒などを作る研究では単一の微生物が対象であるのに対して、環境微生物はいろんなタイプの微生物が複合して存在する状態、そのままを扱います。人間社会と似ているなと思っていて、どの微生物同士が一緒にいると力を最大限に発揮できるのかを考えるのが面白いです。

―現在なさっている「観光客参加型食べ残しメタン発酵温泉エネツーリズムの構築のための研究」について教えてください。
―現在、メタン発酵は日本でも海外でも大久保システムとして、行われています。これは、たくさんゴミを集めることで、たくさんのエネルギーを作ること、単価を安くできるためです。しかし、最初に大きなものを作るには初期投資がたくさんいるので、個人による金額負担が厳しい現状があります。そこで、小規模なメタン発酵について考えています。メタン発酵は、微生物によるエネルギー生産なので、微生物活性を高めるために、発酵槽を温める必要があります。小規模の場合には、大規模に比較して小規模では、単位体積当たりに必要な加温エネルギー量が大木か唸ってしまいます。そこで、小規模メタン発酵の加温エネルギー及びその費用を抑えるために天然の温泉熱を使うことにしました。これにより、小規模メタン発酵エネルギー収集がプラスになり、コストも安くなるため、一企業や個人でも資金投資できる価格帯になり、それぞれ自分でエネルギー生産することができるようになります。震災を受けて、いざというときに、電機やエネルギーガスを自分たちのすぐそばで作ることができる世界が必要だと思いました。震災時、一つの明かりがあるだけで、とてもホッとしました。なので、そういう意味のエネルギーがあってもいいなと思っています。私が大学教員だからという立場だからこそ、効率やコスト、利益だけを重視するのではない、研究をやろうと考えています。

―どういうときに、そういった発想を思いつくのですか。
―私は、自然状態というのが簡単でとてもいいと思っています。よく知られているエタノール発行では、特定の菌だけで行われ、菌が活発でいられる環境維持にたくさんのエネルギーを必要とします。一方、私が研究しているメタン発酵は、田んぼや牛のげっぷからも出ていて、自然界からも出てくるものです。このメタン発酵は雑多な菌のいる環境で酸素のない状態で行われます。そのため、私たち人間がコントロールしなくても、自然状態で出てきます。最もの自然の営みを活用したメタン発酵が、日本で普及すればいいと思っています。たとえば、家でカスピ海ヨーグルトを作るのと同じ感覚で、簡単にエネルギーを作って、もし停電になっても家にはメタン発酵があるから大丈夫と思って生活するような、より身近なものになっていけば素敵だと考えています。準備には少し時間がかかりますが、メタン発酵を行うことのできる菌叢が一度整えば、生ごみなどの原料を投入すれば手軽にエネルギー生産ができると思います。メタン発酵では、CO2やメタンガスのほかに、窒素やリンが含まれた消化液が出ます。この駅は、そのまま下水道に流すには濃すぎます。そこで、田畑の肥料として積極的に利用することを提案して、資源循環システムを作っていこうとしています。実は、消化液に含まれるリン資源は、世界中では枯渇しており、2060年以降にはなくなると考えられています。消化液を使うことは、食糧生産の観点でも、地域の中で、資源を循環させる観点でも大事だと思います。 バイオマスエネルギーは一番身近で、誰でもちょっとした設備があれば、作ることができるエネルギーです。こういった再生可能エネルギーを多くの人に知ってもらえるよう、体験してもらえるようにしていきたいと思っています。企業や国を対象にした場合には、いくらのお金が儲かるかが大事ですが、「生きる」上では、お金にはならないけれど、楽しくやっていることもたくさんあると思います。その楽しくできることの一つに、メタン発酵によるバイオマスエネルギー生産を加えられるようにしたいです。家庭で作るエネルギー、趣味で作るエネルギーにできたらいいと思っています。例えば、お父さんの日曜大工やお母さんのカスピ海ヨーグルトのようにしたいです。そして、モノ(資源)の使い方を考えるきかっけを作っていきたいです。持続可能な社会を生物生態系で考えてみると、安定した生態系になるときには、それぞれの生物がその活性をスローダウンさせています。いつかは、人間社会も全体的にスローダウンしないとうまくいかないと思います。今までのモノ(資源)の使い方とは違い使い方で豊かな気持ちになれる社会を作るきかっけにメタン発酵がなればいいと思っています。百聞は一見にしかずといいますが「一見」でもまだ足りなくて、やってみることは大きい力を持つと思っています。だから、いろんな人にやってもらう機会をタカうさん作っていきたいと思っています。実際にやってよかった小学生対象のイベントがあります。


生まれ育った町の小学校でペットボトルの中でバイオマスエネルギーを作りました。ペットボトルに牛の糞・微生物が元気になるサプリメント(人が飲むビタミンやミネラル剤)を加えて、ふたを閉めて3週間くらい置いておくと、中にガスがたまっていきます。うまくいけば2Lのガスを作ることができ、それが3袋集まれば100mlの水をお湯に沸かすことができます。小学生と、一緒に糞から作ったガスに火をつけたとき、全員が喜んでくれました。やはり、やってみるということは、とても大事だと思い、この体験教室をベースにメタン発酵を広めていきたいと思いました。研究の観点からいえば、小さなリアクターでも、たくさんのガスが出るように技術を高めること、微生物活性をより高めて維持すること、いかに安く作るかという研究をしていきたいです。

―最後に女子中高生にメッセージをお願いします。
―自分の好きなことをまっしぐらにやってほしいと思います。それが一番、自分のスキルを伸ばすことになるし、人生も一番楽しめます。もう一つ大切にしてほしいこと。人とのいろんな出会いを大切にしてほしいです。振り返ると、いろんな人に育てられてきたと感じます。その人と出会ったことが、生きていくうえでの宝になっていることがたくさんあります。

多田さん、ありがとうございました。